いつもと同じ林の中の道を歩いていると
ふと一輪の花が私に話しかけてきた
その花はずっと昔から
そこに咲いていて
通るたびに軽く首をかしげ
無邪気に笑いかけているようで
私もそれに
軽く会釈して通り過ぎていた
その日は、花がいつもと違って艶かしく
私の方へ首を傾けた
その花を手折ってしまえば
私はその花を永遠に自分のものにできる
しかし、手折られた花は
いくら水を注いでも
私の手中では生きられないこともわかっていた
花は花として野にあり
時に虫たちの羽を休ませ
時に人の荒ぶる心を慰める
次の日、また同じ道を歩いた
花は相変わらず朗らかに笑いかけてきた
私もいつもと同じように会釈した
こうして、私と花の日常が過ぎていく
平穏で、ささやかに幸福な、日々の積み重ね
「花を手折ることなかれ」
林の中の静かなる道に
私はこう標しておこう