「風を浴びきりきり舞いの曼珠沙華 抱きたさはときに逢いたさを越ゆ」 吉川宏志
彼岸花が屋敷内に咲いている。
その赤は、薔薇の赤ともチューリップの赤とも違い、なにか寂しげな悲しげな赤である。
「彼岸花」の由来は彼岸の頃に咲く花という意味が一般的らしいが、それを食すると「彼岸(死)」しかないという説もあるらしい。
どちらにしろ、毒性の強い花で絶対に食用にしてはいけない。
日本では死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、剃刀花(かみそりばな)、狐花(きつねばな)などと呼ばれ、不吉な花とされている。
昔、母から、「家に持って入ったら、火事になるよ」といわれたこともあった。
そんな彼岸花に対するこんな印象をがらっと変えた短歌がこれである。
「逢いたい」なんて生易しいものではない気持ちを、
静かな彼岸花をきりきり舞わすほどの衝動を、作者は表現したかったんだろうか。。
彼岸花の花弁は6枚で放射線状にくっついている。
それが風車のように回る様子はさぞかし性急で美しいことだろう。
韓国では彼岸花のことを「相思華」ともいうらしい。
これは彼岸花が花と葉が同時に出ることはないから「葉は花を思い、花は葉を思う」という意味であるとのこと。
思い合う二人が決して出会うことがないとは、なんと切ないことなんだろう。笑。
仏教経典によれば、「天上の花」ともいうこの彼岸花。
「天上」というのは仏教六道のなかで、もっとも苦悩の少ない世界をいうらしい。
彼岸花は見る人の心持ちによって、禍々しかったり、衝動を誘ったり、切なかったり、気高かったり。
なんとも不思議な花だと思いながら眺めるうちに、空がみるみる暗くなり、やがて雷雨になった。
「天上」から「全ての苦悩から自由になり、私のように奥深く赤く輝きなさい」と言っているのかな。笑。