兄くんが京都から突然帰ってきた。
シューカツ(就職活動)を始めるのでスーツを買うからと。
京都のほうが品揃えが多いだろうに、というと、自分で選ぶのが面倒だと言う。
生来の面倒くさがりは、やはり一人暮らしをはじめても治らないのか。笑
紺、黒、ダークグレーがあり、私はその中からダークグレーを選んだ。
ネクタイは自分で選んだらというと、それも任せるという。
あれこれ、彼の首に巻きつけて、3本ほど選んだ。
どうやら、彼の趣味と私の趣味は一致しているようで、もめることもなくすんなり決められた。
たくさんのスーツを眺めながら、ふと、父の背広のことを思い出した。
スーツのことを昔は背広といっていたんだろうか。
父も母も背広と言っていた。
私の記憶では、背広は今みたいな既製服が主流ではなくて、生地選びからやって、採寸して、すべてオーダーメイドだった気がする。
小さい頃、小倉の紳士服の店に連れられていって、母が生地を選び、店の人が採寸をしていた情景がふと蘇ってきた。
父はYシャツも冬のオーバーコートも、誂えていた。
たぶん、小柄な父の体型に合う既製品というのがあまりなかったのか。
姉もそのことを覚えていたようで、ヨーロッパに留学した時に、父へのお土産としてコートの生地をイギリスから買って帰ってきた。
生地のよいものは長く着られるようで、オーバーは父が亡くなった時に母が「寒かろう」と着せてやって、父は天国にそれを着ていった。
そんなことを店で思い出しながら、兄くんに「自分でお金を稼ぐようになったら、自分にあったスーツを作ったらいいね。」と言った。
兄くんはきょとんとしていたけど。笑。
オーダーメイドのスーツを着るというのは、若い人の感覚にはないかもしれないけど。
普段はラフな格好をしていても、体にあったものを着てびしっと決めている男性の姿はいいもんだ。
ただ、父が帰宅したときに、背広、ネクタイ、タイピン、時々カフスボタン、Yシャツ、ベルト、ズボンと、脱ぐのにえらい時間がかかって大変そうだったけど。
時々、父の背広をハンガーにかける役目をしていたんだが、その背広からタバコの匂いがしていたのがなつかしい。
背広も着る人に合わせて、風合いが出てくるんだろうなぁ。。